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 工場から出る泥で川が流れ、街全体は泥一色。その工場から出た泥で作られた街の特産物は毒々しい紫色をした芋だ。俺はその泥の色も芋の紫も大嫌いだ。毎日泥色の街の景色を眺め、三食ともあの毒々しい色のした料理が出されるのはもううんざりだった。見ただけで吐き気がしてくる。どうしてみんなそんなに平気で食えるんだ?フユキなんかこの前ドロドロの紫シチューを三杯もおかわりしてたぞ。あんなの食べるやつの気が知れねえ。
 工場は飽きもせずに廃液管から川に泥を吐き続けどろどろと滞った流れが街を泥色に染めていく。乾いても泥は塵になって空気を汚す。俺はそんな汚れた空気を吸うと思うだけで胸がムカムカしてくる。一生この中で生きていくのかと考えるだけで気が狂いそうだ。絶対ここを出てやる。
 そんなフラストレーションの中、救いなのが最近できたテイクアウト専門ファーストフード店“陳珍堂”名前はともかくあそこには俺の大嫌いな紫色と泥が全然ない。そして何よりも香ばしい匂いとてかてかと輝く色鮮やかな料理たちが俺のストレスを忘れさせてくれる。
 俺は学校が終わると一目散に陳珍堂に行っては小遣いに限りがあるまでありとあらゆる食い物を買いあさっては唯一泥を見ないですむ部屋の奥の押し入れに閉じこもってむさぼるように食いまくった。


 今日は何を食べようかな、鶏肉の南蛮揚げもいいないやたまにはあっさり八宝菜もいいな、そういえば来週豚の角煮が新発売されるらしいなああはよ出んかな。朝っぱらから陳珍堂の料理のことで頭がいっぱいで学校の授業なんてどうでもよかった。それにしても先生おせーな。授業長引くじゃねーか。クラスの奴らも先生が来ないもんだからぺちゃくちゃしゃべりだしてる。
 ガラガラ、先生があわてた様子で教室に入ってくるなり「お前ら静かにしろっ、えーっ一時間目は自習にするっ!」クラスのみんなはキャーとかガッツポーズとってるとまた先生が「しーずーかーにっ!」怒鳴る。うるせー。二組の先生も入ってきて先生とひそひそ話すると「それじゃ先生は行くから静かに自習しとくんだぞっ!」っていって教室をあとにする。当然クラスの奴らはわいわい騒ぎだすうるせー。
 学校が終わるといつものように陳珍堂に駆けていく。おれは鶏肉の南蛮揚げと八宝菜を買い込んでホクホク顔でうちを目指す。途中うちのクラスの女子グループがとろとろ帰ってなんか話してる。
「ねえヤスダさん病気しとるらしいよ。それもへんな」
「えっ、そうなん?最近来とらんけどそうなん?」
「えっ病気って、なん?」
「さっき先生の話耳にしたんだけどさー。なんかへんな病気らしいわよ。全身がパテ芋の色になって泥色の水玉模様が体中にできちゃってさー。大笑いするらしいよー」
「なにそれウケるんだけど、てかありえなくない?」
「いや笑えんでしょ、わたしそんな病気なりとないわ」
 くだらねー
とっととうち帰って八宝菜食お


 俺は高校卒業して東京の大学に進学した。これであの紫と泥のついた街とはおさらばという訳だ。ところがだ、大学にも一人暮らしにも慣れてきてひと月が経ったころ、テレビのニュースとかで最近都市の泥化が進んでいるという報道をよく聞く。原因は例の工場の景気がよく成長を今も続け、未だに泥は吐き続けていることらしい。それに伴いあの毒々しい芋が各地で特産物として栽培されているそうだ。
 なんなんだあの紫と泥は、どこまでも俺をつけてくるのか。そう思うとあの頃のイライラを思い出し、あの時以上に激しい怒りがこみ上げてきた。
 ニュースで報道していたわりには都市の泥化は急速ではなくまだ東京にまで来ていなかった。相変わらずニュースでは泥化についての報道が頻繁にされていたが、大学を卒業するまで特に大きな変化はなかった。しかし泥は確実に俺のところに近づいてきていた。
 会社に就職してそれなりに忙しい日々を送っていると、俺はあの紫と泥のことに気にかけなくなった。ニュースの報道も耳にタコができるほど聞いてきたから気にもしなかったし街は全くと言っていいほど汚れていなかった。しかし東京にも気づかれないようにじわじわと泥化は進んでいた。それは例えば、いくら太陽を見ていてもそれが動いている様子を見ることはできない。しかし実際では肉眼では確認できないほど、それはゆっくり動いている。この泥化はそんなものだった。その肉眼では確認できない泥化に気づいたときには街は、もう












 東京はもう泥一色になっていた。
 俺は次第に会社を休むようになり部屋に引きこもっていった。どこに行っても泥色なのだ。俺のストレスは頂点に達していった。俺は食料を買溜めて極力外に出ないようにした。もちろんカーテンを閉め切って泥との接触を一切避けた。しかしこんな生活いつまでも続く筈がない。貯金もそんなにある訳じゃない。どうしたらあの忌々しい泥を追いやることができるのだろう。どうしたらあの泥を見ないで暮らしていけるんだ?日々そのことしか考えられなかった。
 しかし、いくら考えても答えは見つからない。一つ除いて。


思い立ったある日の晩、俺はうとうとと浅い眠りから醒めると顔を洗うために洗面所に立った。そして鏡で自分の顔を見たとき、俺は全身の血の気が引いた。真紫なのだ、全身、あの毒々しい紫色の芋と同じ色をしている。俺はもう立つ力を失ってその場にへたり込んで壁にもたれかける。ろくに息ができない。両手をかざしてみると、両手も見事に紫色をしている。あああ、ふいに学校の帰り道クラスの女子が話してたことを思い出す。

「ヤスダさん病気らしいよ」
「そうなん?最近来とらんけどそうなん?」
「えっ病気なん?」
「さっき先生の話耳にしたんだけどさー。なんかへんな病気らしいわよ。全身がパテ芋の色になって泥色の水玉模様が体中にできちゃってさー。大笑いするらしいよー」

全身がパテ芋の色になって泥色の水玉模様が体中にできちゃってさー

全身が紫色と泥の水玉模様になったヤスダを想像した。
 どうして俺なんだ 手のひらにプクプクッと泥色の水玉模様がひとつふたつできていく。そして体中に広がっていく。ああっ、おれはびびってうでを見回した。次々水玉模様が浮き上がる。うわっ うわっ うあああああ 俺は水玉模様を取り除こうとしてうでを掻きむしる。服も脱いで体も掻きむしる。そんなことをしても無駄なのは頭では分かってたと思う。けどとにかくここから逃げ出したかった。ずいぶん乱暴に動き回ったせいで、俺は部屋のあちらこちらにぶつかる。棚からものが落ちたりなにかが壊れた気がする。そして足がもつれて盛大にこけた。
 はぁ はぁ 浅くなっていく呼吸の中、俺は手のひらの泥の色をした水玉模様を眺めた。死ぬまで俺はこの、この紫と泥からは逃げられないのか。
もう全身に力は入らないのに口から声が漏れる。それから肺が痙攣し始める。



 は、は ははは はは  は あははははははははははっは はっはははははははははははははははあはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっははははははははははあっ
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