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まえがき


 私と姉は双子でいつも同じ部屋にすんでいた。
 ちょうどちびまる子ちゃんとその姉のような生活が小学校に上がったときから続いている。
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 よく夜中に布団の上で、姉と私はどれどれが好き。とか、きょうあんなことがあったね。とか、たわいもないことをいいあったりしていた。
 私と姉はいつも一緒で、家の中はもちろん外でも二人なかよく遊んでいた。空き地の中を駆け回り日の光と草のにおいが思い出す。シロツメグサをちぎり冠を作ってはおたがいにかぶせ合ったり。水たまりにひそむ やつら にてをだして、きゃきゃきゃ姉と笑いころげる。時には男子たちとまざってうぇいうぇい争ってたし、今思えば危なっかしい遊びもいくどとした覚えもある。
 昼間に二人してクローゼットの中へ入り戸を閉めると、暗やみが表れ戸から漏れる光のかんじ。女の子二人入ってしまえばぎゅうぎゅうにせまいけど。そのせまさと、暗やみにいきる動物たちの視界とで広さがダブってる面白さもあるし、なによりあの暗がりを無しょうに楽しんだ。
  
アリスタ


 中学にあがる前のことだった。朝,目が覚めてもわたしは何度もニ度ねをするたちだけど久しぶりにぱちりと目を覚ますことが出来た。むくり。ふとんから身を起こす。
 まどから日の光がさしこむ。はて、お姉ちゃんのふとんが見当たらない。いつもならふたりでいっしょにふとんをたたんでるのに今日は先にひとりでおきたのかな。今日はなんか早起きしなくちゃいけないことでもあったっけ。やっぱりまだ寝ぼけてて服を着がえるためにふとんから出るわたし。
 気がつくとふとんどころかつくえもランドセルもない。
 服を着がえて下におりるとお母さんが朝ごはんを作ってたけどお姉ちゃんはいない。
 「お母さん、お姉ちゃんどこいったん」と言ってみると「あんた何言っとん、はよ食器だして」まるでとりあってくれない。
 わたしが食器を食器棚からだすとお父さんが上から降りてくる。つくえに食器を並べるとわたしはまた「お姉ちゃんは」と言うと「なっちゃん、まだねぼけとんの」「夏子はお姉ちゃん欲しかったんか」ととんちんかんな答えが返ってきた。
 「食器までだして、おかしな子ね」
 お母さんはわたしが出した食器のうちお姉ちゃんの分を食器棚にもどす。
 わたしはなんだかよくは分からないので、むすっと不機嫌になってだまって朝ごはんを食べて家を出る。
 橋の上にいくとさきちゃんがいた。
 さきちゃんはひとり橋の上で下でながれている川のうねをじっと見ていた。
 わたしが「さきちゃん」とよぶとさきちゃんはいつもの笑顔でこっちを見てくれる。
 「さきちゃん。お姉ちゃん知らん。朝からいないの」
 「なっちゃんってお姉ちゃんいたっけ」
 さきちゃんまで。もうなんなの。
 またしてもわたしの顔がむすっとなるとさきちゃんが心配そうな顔になる。
 「どうしたの」
 さきちゃんこそ、きのうわたしとお姉ちゃんとさきちゃんの三人で学校帰り遊んでたのに。
 さきちゃんの声にますます不機嫌になるわたしのうしろからかけ足が聞こえてくる。

「けんじ〜、けんじ〜」

リョータだ。
 リョータとけんじはうちの班では最年長の男子コンビでいつもふたりでバカなことばっかしてる。
 
「あれ〜けんじどこだ〜」

 けんじはいつもどこかでひとり遊んでいて、だからまずリョータはけんじをさがすことから朝の一日が始まる。
 おねえちゃんがいないのに、ああも能天気な声を出されるとさすがにいらつく。ますます不機嫌になるわたしの顔を見てさきちゃんは困りはててうろうろしてる。
 「ふざけんと答えてよ。お姉ちゃん知らん」

いらだってついわたしは声に力が入る。さきちゃんはおどろきリョータとけんじもなんだどうしたとかけよる。
 学校に着いてもおかしなことは続く。お姉ちゃんの机が見当たらない。後ろのロッカーもお姉ちゃんが使ってるところを今は他の子が使ってる。
 お姉ちゃん、どこいったん。
 どういうこと、もう真っ白になったわたしは授業が始まって先生がなにかしゃべっていてもそれをろくに頭の中に入れることが出来てないし、教科書をめくってみてもそこに書いてる文字を読むことがぜんぜん出来なった。


お姉ちゃんどこにいるん


 授業中、わたしはひたすらこのことばをなんどもなんどもくりかえし唱えていたと思う。気がつくと授業はあっという間に終わってた。友達に聞いて回ってもまともに取り合ってくれはしなかった。冗談をっていると思われてからかわれてわたしがムキになると今度は心配される。先生に言ったってきっとだめに決まってる。だから、お姉ちゃんがいそうなところをずっと考えてた。
 学校が終わるとすぐにわたしは教室を飛び出して家に帰る。
 家に帰ったらぜんぶ元に戻ってるんじゃないかな。もしかしたら家に着いたらお姉ちゃんが待っててくれてるのかも。そうあってほしい。
 息を切らせて走って帰る。ランドセルが背中で走るたんびにゆれ続け走りづらい。気持ちはどんどんあせってくる。からだから息の切れる音がなり続ける。お姉ちゃん。
 家が見える。ドアを開けると、家の中はしんと静まり返ってた。窓から夕日がさしこんでてだれもいないみたい。とてもさびしい雰囲気が家の中に広がってるみたい。
 「おねーちゃーん、いるー?」
 しんと静まり返った家の中、私の声だけがひびく。誰も返事をすることなく二階に上がっていくわたしも追いかけるように二階に上がる。二階にある子供部屋へ。子供部屋にはいると、そこにも夕日が差し込んでいてしずかだった。お姉ちゃんはいない、けどお姉ちゃんの机とそのうえにランドセルが置かれてた。
 わたしはなんだか足の力が抜けドアのまえでしゃがみ込んじゃう。はあ。
 なんだか朝からいやに気をはりつめてたから、ほっとしたわたしはランドセルをおろす。一階に下りて居間に何か食べ物ないかな、そう思って冷蔵庫を開けたり閉めたり机の上を物色してみる。
 でも

「あらなっちゃん、帰ってたの。今日は早いわね」
まだお姉ちゃんの姿はいっこうに見えてない。だからまだ安心できないな、て思ってたら後ろからお母さんの声が聞こえたからびっくりした。てっきり家には誰もいないかと思ってたからとても心ぞうに悪い。
 「うん」とわたしはびっくりして生返事しかできなかった。あ。お母さんならお姉ちゃんがどこにるか知ってるかも。
 「ねえお母さん、お姉ちゃんどこにいるかしんない?」
 わたしの一言でお母さんの顔がくもる。お母さんは少し目をとじて一息つくとわたしにいすに座るようにと言い、自分はわたしの反対にすわる。
「はあ、あなたにこのことはあまり言いたくなかったんだけどね」
 どういうこと?お母さんは私のことは全く見ずに思いつめたように目を伏せる。
「お姉ちゃんはね、あなたが生まれてすぐに死んじゃったのよ」
 え?全然お母さんのいってることが分かんないし。
「ほんとはね、言いたくなかったの。知ってほしく、なかったのよ」
 冗談でしょ?
「でも、いつかは知っとかないといけないわよね」
 意味分かんない。だって二階にはお姉ちゃんのつくえがランドセルが、あの部屋にはお姉ちゃんのものがあふれてるじゃない。
「うそでしょ、お姉ちゃんいるじゃん」
「なに言ってるの、なつ子」
 わたしはお母さんのうでを引っ張って二階の子供部屋、わたしたちの部屋へ上がる。
 子供部屋のドアを開けるとドアのすきまから夕日がもれてくる。部屋にはわたしのつくえとランドセルしかなくお姉ちゃんのつくえとランドセルは最初からなかったみたい。
「どうしたのよ」
「 ・・なんで」
 もうわけがわからない。なんでこんなことになっちゃったの?
「・・おねえちゃん、お姉ちゃん、どこ!」
叫び声がお母さんに子供部屋に二階に壁、天井にぶつかってひびく。お母さんはわめくわたしに手をつけかねてこまってる。そのすきにわたしはお母さんの視界から消え階段をかけおりて家を出る。
「おねえちゃん、おねえぇちゃーん!」
 いてもたってもいられなくて家を飛出したけど、いったいお姉ちゃんがどこに居るのか全然分からない。すぐに思いついたのはいままでお姉ちゃんと遊んだところをくまなくさがすこと。マンションの裏、公園、川べりと土手。神社のしたにひとん家のへいのうえ。もの心がついて間もない頃からお姉ちゃんとはずっといっしょにいた。思いつく限りのとこは行ってみた。それでもお姉ちゃんは一向に見つからない。やっぱり何のあてもなく探しても見つかるはずがない。
 気がつくと駅前まできていた。日がくれ駅からは会社や学校から帰ってきた大人や子どもがぞろぞろでてくる。目立つ格好をしたお兄さんやお姉さんが駅から出てくるその人たちにティッシュや紙を配ってる。そんな光景をわたしはぼおっと眺めてた。
 ぼおっと眺めてると、その流れの中にひとつだけ身のこなしがかわってるヒトをみつけた。わたしとおなじ背格好をした女の子が真白なワンピースを皮膚のようにみにつけそれ以外は何もみにつけてないよう。くつすらはいてない。肩までのびたくろいかみのけが女の子の歩みに合わせてさらさらなびく。あたまにお姉ちゃんがいつもつけてた赤いカチューシャをつけてた。
 不思議ななりをしたお姉ちゃんは駅前をあるいてる。周りにいるひとたちは気にもとめていない。むしろ気づいてすらいないよう。おねえちゃんはそのまま駅前のビルのかげにかくれてしまった。あっ。わたしは追いかけてお姉ちゃんをよぶ。
 ビルのかげに入ってもそこにはお姉ちゃんはいなかった。もうどこかに行ってしまったんだろうか。わたしはそのままビルのかげから続く道を走る。
少し走るとビルはなくなり代わりに空き地が続くようになる。空き地のむこうには線路があって電車がおおきな力で風を切る音がひびく。そういえば小さい頃、本当に小さい、幼稚園に入るまえの頃か小一のころはよくお姉ちゃんとこの空き地で日がくれるほど遊んでたのをすっかり忘れてた。あれはもしかしたら夢なんかじゃないのかって言えるくらい映像がぼやけて断片にしか見えない。あの頃と同じように日がくれてきて暗くなってきてる。
空き地の中は四月のわりには草がいきよいよく生えてた。くらがりの中、ぼんやり草むらをながめてると草のあいだからちいさな青い光がちらちら光ってる。なんだろう。さくをくぐって草むらをかき分けてその青く光るほうへ進んでみる。ひかりはうっすら消えたり光ったりしてじっとしてる。その光に近づくにつれてその形がはっきりしてくる。カチューシャが光ってる。それもお姉ちゃんがいつもつけてるやつ。カチューシャはそれ自身が光ってるというより、カチューシャのりんかく線を青白い光がなぞっているよう。
カチューシャを手にとったときはひかりは今にも消えそうなほどよわよわしかった。ああきえる。とおもったらなかなか消えない。よわよわしいけどじっとこらえるような強さがひかりにはあって、その強みがどんどん増してくる。増してくるごとに周りもひかりに吸い込まれるように歪んできてる。わたしがその青白い光に見入っているとわたしのまわりの景色が全部歪みだしてる。足下に生える草草地面、暗がりの向こうに見える建物、さらにそのむこうにある空がぐにゃぐにゃに溶け出していってついにはペリッとはがれちゃってる。はがれた部分には余白の白がのぞいてる。よはく?わたしのまわりはものすごいスピードで変形していってるっていうのか、とにかく目まぐるしく景色が変わっていってる。わたし自身も宙に浮いているようで体がいろんなところに落ちようとしてくるくる回りだす。
目の前は、もう、かんぺきに、げんけいを
 と、と
  ああ・・ 目がまわっ
 ・・メガマワルルゥ


 うえぇ・・


「ぐっ!?」
 どうやら体の落ちる向きがさだまってわたしは地面に体をぶつけるんだけど、姿勢がちょうど逆上がりをして足がてっぺんにあがる一歩手前の状態で地面に着いたので胸がぎゅっとつぶされたような感じがした。
 目を開けるとさっきまでの歪んだ視界はなく、かといって日の沈んだ空き地でもなかった。日が照る中、かわいた更地が草が一本も生えてなくてずっと広がる。雲一つない、快晴。なんにもない。

 ここはどこ?
 背中からつよくうってその振動があたまに伝わってぐらぐらする。そうでなくても歪んだ視界の見過ぎで気持ち悪い。グロッキーのままゆっくり体を起こして背中についたじゃりをはたいて落とす。
 あらためて周りを見渡すと今まで見たことなかった景色が広がってると思ってると、とつぜん地面がゆれて地中からなんかでてくる、すっごくでかい!どんどんそらにむかってのびていってる。なんだろ、うで?でっかいうでが地面からでてきた。また地面がゆれてもう一本うでがとびでるっ
 そらにむかってまっすぐのびた腕はゆっくり勢いがなくなって、そのまま地面に手をつく。手をついた衝撃で砂ぼこりがおこったんで、わたしはおもわず顔を腕でおおい目をつぶった。腕が出てきた穴から今度はおおきな顔がニョキと出てきた。色白のその顔は、顔といっても目と小さな口だけであとなんにもついてないし、しかも本来目があるところには目のかわりに十字がふたつついてるだけなんだけど、むくな笑顔でコッチのほうを見てる。というかわたしを見てない?
 わたしをとらえた怪物は腕をコッチに伸ばしてくる。ぶつかると危ないので後ずさりするけど、なかなかのスピードなので走って逃げる。けど全然怪物の伸ばす腕のほうが速いので、ぶつかる!いやっつかまれるのかも!わたしはおもいっきり目をつぶって地面にふせた。そのとき、ずんっっ と低い音がわたしのあしもとを大きくゆさぶった。
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ひ口 なつ子
年齢:
27
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女性
誕生日:
1997/02/22
職業:
中学生
趣味:
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